生地屋跡を繊維産業の発信拠点に

【物件情報】
・元布地販売店(大手3丁目)
・持主:個人・木造2階建  
*元は生地を扱う小売店(ハギレヤの親族が経営)
 4年ほど前に現持主が購入

 福井駅西口広場から伸びる中央大通り沿い、福井市役所や県庁からもほど近い場所に対象物件がある。元は布生地やインテリアファブリックなどを販売する生地屋を生業としていた。

 福井は繊維産業が盛んであり、かつて福井駅前はおしゃれの最先端を発信する場所だったが、今はそういったファッションカルチャーの情報を得られる人々の居場所が少ないことを指摘。また、福井県は呉服屋の件数が全国でも一位だということにも着目し、物件オーナーの生業からもヒントを得て、駅前にファッションカルチャーを感じられるにぎわいの拠点をつくることを提案した。

 さらに、福井駅と繁華街である片町との中間地点であることを視野に入れ、通りの回遊性と繊維産業の情報発信の仕掛けを考えた。

「今あるもの」を活用して事業をつくる

 事業内容は、生地の工場の生産過程などで発生する商品価値がなくなった生地の切れ端「ハギレ」を提供してもらい、アーティストやデザイナーと共にReデザインを行って、販売やギャラリー展示などを実施する。そこでハギレに新しい付加価値を与え、商品として復活することで、利益を生む仕組みだ。

 建物内には、販売スペース、ギャラリー、ミシン工房を用意。事業に関わるアーティストやデザイナーには若手を起用することで、実験的な取り組みや表現の場の提供となれるため、福井独自のファッション文化の醸成を後押しすることもできる。

 また、建物の前を走る中央大通りに設置されたギャラリーボックスを活用し、アーティストとのコラボレーションによるストリートギャラリーの展開も提案。通りを歩く人々にその作品群が目に留まり、自然と福井の繊維産業やファッション文化に触れられる。さらに、福井駅前から片町や浜町、中央公園などへの周遊性も高め、一つの物件だけでなく公共空間であるストリートも取り入れた広く動きのある提案となった。

講評 [らいおん建築事務所 嶋田洋平氏]

「まず建物に執着せずに事業内容を組み立てたことと、着物を着ることで主体的に当事者としてプレゼンを行ったこ とが非常によかったと思う。人々は、その地域にある本物を見たがっている。時代によって培われた技術や製品は、プライスレスな価値となるだろう。新幹線が来るまでの3 年間を見据えて始めれば、この場所を福井の繊維産業を発信する観光の拠点にもできるのではないか。」