高岡邸
高岡勇治氏

迫建築設計工社、UDS 株式会社勤務を経て独立。
不動産や商業施設の企画設計、家具や建材の商品企画開発などを行う。
駅前に拠点を持つことの可能性
福井駅前から徒歩約6 分の雑居ビル。薄暗く狭い階段を登ると、建物の外観からは予想できないような洗練された部屋が現れた。どこか秘密基地のようでもある。そこは企画設計、家具・建材の商品企画開発などを行うSanpo Design Office 代表、高岡勇治(たかおかゆうじ)さんの仕事場兼住居である。セルフリノベーションされた部屋には、中国の職人にオーダーメイドで作ってもらったレンガタイル など、高岡さんが開発に携わった建材がセンス良く配置されており、日本と中国のエッセンスが入り混じる独特の内装は、福井、東京、上海で3 拠点生活を展開する高岡さんの価値観を表しているように感じられる。なぜ、駅前に住むんだろう。そういう発想がなかったので、聞いてみた。

「実際に駅前を拠点にした暮らしを表現することで、それができるんだというプロトタイプモデルを作りたいんです。ここは『実験の場所』。で、内装など自分のやりたいことを詰め込んだ感じですね」。
駅前を拠点にしていて楽しいのは、たまたま街で出会った面白い人と飲んでいる時だという。面白い人が拠点を駅前でつくるケースが増えていけば、地域の熱量が上がって何かが始まる可能性になるんじゃないかと言う。

「僕が中高校生だった頃には、新栄商店街が栄えていていつも行っていました。当時はセレクトショップ、古着屋さん、レコードショップがあって、そこで働く人も場所も、すごくかっこいいと思っていました。それが駅前の原風景です」
郊外化が進み、再開発によって店舗が撤退し、寂れつつある駅前。その駅前にあえて人々が集う拠点をつくることで、再び駅前に人と熱量が戻ってくるのだろうか。高岡さんが始めた新しい取り組みに共鳴して、未来のプレーヤーたちが集まる場所になることを強く願う。
新栄リビング
中上久範氏

ブランド品のバイヤーなどを歴任し2017 年秋に退社。
帰福後アウトドア用品の買取専門店とシェアオフィスを駅前に開店。
新栄リビングの代表としてまちづくりにも携わる。
駅前だからこそ人が見える、つながれる
福井は日本で一番郊外型商業が進んでいる街。対照的に、中心市街地における消費は徐々に減っており、かつては福井の駅前でファッション&カルチャーの発信基地であった新栄商店街も今ではシャッターを閉める店舗が増え、人通りも少ない。

2014 年、福井市は中心市街地の低未利用地の活用を模索するため、福井大学と協力して社会実験を実施。新栄商店街内のコインパーキングを“憩いの場”として改造し「新栄テラス」を作った。2 年間の社会実験の後、2016 年に新栄商店街振興組合に運営権を譲渡。2019 年の春からは新栄商店街の有志が「新栄リビング」という任意団体を立ち上げ、管理を行っている。その中心となって尽力しているのが、中上久範(なかがみひさのり)さんだ。中上さんは新栄テラスに接するビルでアウトドア用品専門買取店を経営しながら、テラスを管理している。
もともと福井出身で、2010年頃から転勤で金沢に赴任し、2017 年秋に退職。退職を機に福井へ戻り、縁あって2018年春に新栄商店街に店を構え、同年夏に新栄テラス・新栄商店街運営への協力依頼を受けたのだった。

運営に関わっていく中で、商店街への熱い思いを持ち始め、現在では運営主体の代表として毎日忙しく動き回っている。「開業前は新栄商店街ではなく、郊外の商業施設での出店も考えましたが、その場合、モノは売れても人との関係が希薄になってしまう。一方で、駅前だと『一対一で繋がった状態で、物を売れる』良さがある。正直、店を運営しながら、テラスを管理するというのは大変なことも多いですが、この場所を利用する人の顔が見えたり、交流ができたりすると自然ともう止めようという気にはならない。ここは人々にとって温かみのある『優しい場所』にしたい。そういう気持ちは常に持っていますね」